カバン・袋物・帆布加工一式 一澤信三郎帆布

一澤信三郎帆布の職人

第3回 工房長 × 販売スタッフ「別注かばん作ってみたら、意外とできるやん!」
小川弘子

販売部。2001年入社(13年目)。学生時代から一澤帆布のかばんが好きでよく使っていた。ある時アルバイト情報誌に販売スタッフの募集を見つけて、「あっ!これだ」と応募。2年ほどバイトスタッフとして勤めてから社員に。現在は店舗での販売だけでなく、別注品の問い合わせ対応からスケジュール管理まで、幅広い仕事を担当している。

佐藤嘉高

製造部長。1989年入社(25年目)。学生時代、テント作りの補助アルバイトとして一澤帆布へ。卒業後は別の会社に就職するも、すぐに退職。再び一澤帆布に戻ってからは25年目を迎えるまで長く勤めている。本人いわくその理由を「作ることも、それ以外の管理というか、かっこよく言えばディレクション的なことも向いていたんでしょうね」。

イチから作るワクワク感

佐藤: 「一澤信三郎帆布の職人」も3回目ってことで、今回は別注かばんの話をしようと思うんやけど。
小川: あ、いいですね。二人とも別注かばんの窓口担当してますし。そもそも別注って昔からやってたんですか?
佐藤: 一澤信三郎帆布の前の一澤帆布時代には、学会のかばんなどを別注で作ってたらしい。僕が聞いた話では、京大の先生などが海外の学会に参加する時などによく記念品のかばんをもらうけど、使い勝手が悪くて日本に帰ってきてから押入れにしまいこんだままだったり、使わずに捨ててしまう。ただ学会用のかばんがあれば資料入れるのに便利だし、一澤のかばんやったら使い勝手もいいし、家族も使えるしということで頼まれたと。当時はうちの製造能力にも限りがあったから、シンプルな手さげかばんに学会のロゴを入れるだけ、とか、とりあえずできそうなかばんの注文しか受けてなかったみたいやけど。
小川: 確かに、昔は別注品まで受ける余裕なかったですもんね。私が入った頃は売れる数に作る数が間に合わなくて、1日の数量限定販売でした。朝に出したかばんがなくなったら「本日売り切れました」って、団子屋さん方式(笑)。土曜日なんかは午前中で全部なくなっちゃって。
佐藤: 一澤帆布が女性誌に取り上げられて、注文がぐんと増えた時期やな。時には店舗に商品がまったくないこともあった。だから毎年ちょっとずつ職人を増やしていって。ほんまはすぐにでも人手を増やしたかったけど、いっぺんに入れても育てられへんから、一人二人入れて育てて慣れたらまた採用しての繰り返し。
佐藤、小川の写真
小川: 別注かばんをちゃんと受けられるようになったのって一澤信三郎帆布になってからですよね。
佐藤: そうやな、それまでは社長や奥さんが別注かばんの注文を聞いてたけど、ロゴ入れるだけじゃなくて全くイチから新しい別注のかばんを作るようになってからは、職人も打ち合わせに参加するようになったし。
小川: 店舗に直接「こんなかばん作りたいんですけど」みたいな問い合わせも入ってくるようになった。だから今は販売スタッフが別注かばんの受付もやってます。
佐藤: こんなこと言ったらあかんのかもしれんけど、やっぱり別注かばんと通常のかばんでは僕らの意識も違うよな。店舗でいま販売しているかばんは、代々の先輩らが考えて作ってきたもの。でも別注かばんは自分でいろいろ考えて作れるぶん面白い。
小川: 私も、別注かばんの場合は注文を受けてから納品まで一連の流れを見られるので面白いですよ。でもお客さんが「こうしたい」と言われたことが間違って出来上がったらいけないので、めちゃくちゃ気を使う。サイズや型はもちろんですけど、シルクプリントを入れる場所とか色とか。注文を聞いて、それを工房の職人にどこまで伝えるか。社長はよく「100伝えるだけではダメで、120伝えないと、お客さんの真意が伝わらない」って言いますよね。
佐藤: 一人の職人に伝えるだけなら間違いも起こらへんけど、何人もの職人が関わると「なんでこんなことが?!」っていうミスがごくたまにある。こないだも別注かばんを何色か作ったなかで、1色のかばんだけネームの位置が1cmズレてたっていうのがあった。
小川: だから最初に細かくメモした仕様書を渡すだけじゃなくて、今はデザイン担当にイメージ画像を描いてもらって、そこからいったん試作品を作るようにしているんです。間違ったものが100個とかできちゃうと取り返しがつかないので。それと、基本的にはお客さんの希望を叶えられるように相談しますけど、無理なことはキッパリとお伝えするように心がけてます。例えば、帆布を反物から染める場合はたくさん作らないと割に合わないし、シルクプリントでも型を作るので数によっては割高になることもある。「オーダーメイドできるんですか?」ってよく聞かれますが、そこそこまとまった数量がないとお受けしていないんです。
佐藤: いくら図面に描いてパーフェクトだと思っても、いざ作ってみたらものすごくバランスが悪かったりすることがある。頭のなかの想像では良くても、使ってみたら使い勝手が悪いとか。だから個数の少ないオーダーメイドは受けてない。今のところ別注かばんは30個くらいから受けてるけど、それくらいなら試作品を作って改善していけるから。あと職人の長年の経験でわかることもあるので、お客様から「こうしたい」と言われたときに、「このほうがきっといいですよ」っていうのは伝えてるね。

同志社小学校のランドセルができるまで

同志社小学校のランドセルの写真
佐藤: 別注かばんで僕が初めて関わったのは、同志社小学校のランドセル。まだ一澤帆布の時代に、同志社小学校ができるっていう話があって開設準備室の先生が来られた。それが開校の1年前やから、2005年かな。もともとうちで作ってたランドセルのサイズを大きくして、色もスクールカラーの紫で、というリクエストやった。「同志社には幼稚園から大学まで制服がない、せめて小学校のランドセルくらいは統一したい」と。
小川: それが、ちょうど納品する前あたりに一澤帆布から一澤信三郎帆布になることが決まって。「すみません、ネームが変わるけど大丈夫ですか?」ってお聞きすると、「うちは一澤信三郎さんにお願いしたので、それがどこの会社になろうと関係ありません」って言っていただいたんですよ。
佐藤: 第1号の試作品には一澤帆布のネームが入ってるもんな。あれは開設準備室の先生がしばらく自転車で通勤しながら背負って、使い心地を確かめてくれはってん。とにかく最初のはランドセルのフタの部分が開きやすいということで、留め具の位置を調整してフタが開きにくいように工夫した。他には、ショルダーバンドが長かったので短くしたり。途中で「エンブレムもあったほうがいい」ということで、試作品にはなかったエンブレムもつけた。あとは、ランドセルの奥にGPSを入れるポケットも作ったな。これは初年度だけで、次年度からは携帯電話ポケットになった。しかも「学校に携帯は持ってこないように」という風潮ができてからは隠しポケットのようにして、見せないようにしたりね。
小川: 7回納品する間に、毎年少しずつ改良を重ねてるんですよね。
佐藤: そう。最近は高学年向けのランドセルも作ってる。そもそも小学校1年生と6年生では体格も教材量も全然違うし、6年間同じランドセルを使うのは無理があるんちゃうかって。高学年用の試作品ができたときは、うちの子にも背負わしてみたんや。ちょうど小学5年生やったから。
小川: 低学年用と高学年用で変えたところってあるんですか?
佐藤の写真
佐藤: 低学年用のランドセルを作ったときに後ろの角が傷みやすかったから、丸みを大きくとって傷みにくいようにした。肩ベルトにも留め具を2カ所に打って強度をもたせて。それと一澤では今まであまりプラスチックを使ってなかったけど、バックルを強化プラスチック製のものに変えた。低学年用のランドセルは学校からのリクエストに応えた形やけど、高学年用のランドセルはどちらかというとこっちからいろいろ提案した。
小川: 私も新入生入学時の学校での販売会には時々行きます。入学のお子さんと保護者さんが一緒に来られるので、「大事に使ってね」って言ってお渡しすると、すぐに背負っているお子さんもいて、うれしくなりますよね。そうそう、こないだは新しくクリニックを開業されるお医者さんが来られて、「開業の記念品に手さげかばんを作りたい」と。なんでも子どもさんが同志社小学校に入ってランドセルを使ってみたら、「これはスゴイと思った」と言わはるんです。「僕はなんでも納得しなかったら買わない主義だけど、こんな使い勝手のいいかばんはない」って。
佐藤: へえ!それはうれしい。7年間改良を重ねてきただけあって、僕もこれは完成形やと思ってる。

ひまわりマークの弁護士かばん

弁護士かばんの写真
小川: 私が印象に残っているのは、弁護士かばんですね。もともとは京都弁護士会さんから弁護士かばんを販売したいという話があったんです。私もよく知らなかったんですけど、京都弁護士会の会員さんが入られている京都弁護士協同組合っていうところで、生協のような形で食品なんかを販売されているんですよ。その商品のひとつとして弁護士かばんを作りたいと。依頼があった時にはすでに様々な弁護士さんにアンケートを採られて、「こんなかばんにしたい」っていうニーズもハッキリしていました。
佐藤: そこから「軽くて、丈夫で、長持ちする、センスのいいサブバッグ」を作ろうってことになったんや。
小川: そうなんです、弁護士さんは証拠書類や訴訟日誌など膨大な資料を持ち運ぶことが多いので、とにかく丈夫で実用的なかばんがほしいと。サブバック代わりに紙袋を使ったらすぐに破れてしまうし、普通のかばんでも持ち手が重量に耐えられなくて切れちゃうらしいんですよね。そこで手さげかばんの定型 H-12 をもとに高さやマチ幅を微妙に変えて、試作品を数カ月使っていただきました。3回くらい試作を重ねて、最終的に高さ36cm、幅33cm、奥行き12.5cmのサイズに決定。これはA4版の資料がタテでもヨコでも収まる大きさで、手持ちでも肩掛けでも使えます。弁護士さんは男性の方が多いので、持ち手は定型よりも長めにしたんです。
佐藤: 僕は弁護士かばんの担当やないから、初めて聞く話が多いなぁ。このひまわりのマークは?
小川とかばんの写真
小川: ひまわりは弁護士バッチにも使われているモチーフで、自由と正義を表すんですって。「是非、ひまわりのマークをあしらってほしい」という要望があって、デザイン担当と相談して高級感のある刺繍にすることにしたんです。この絵柄も私たちが考えたんですよ。
佐藤: もともと弁護士会さんが使ってたイラストじゃなくて?
小川: そう、「ひまわりにしてください」という要望だけで、この絵を描いたんです。あと中身もいろいろ工夫していて、判子を持ち歩く弁護士さんのためにファスナー付きの内ポケットを付けたり、中を隠せるかぶせカバーを付けたり。たくさん荷物を入れても底が落ちないように、底板も後から加えました。
佐藤: へえ、プライバシーにも配慮してるんや。
小川: 今では弁護士さんの業界内でひそかな人気商品になっているみたいで。学校の先生なんかもけっこう重い荷物を持たれると聞くので、これから応用できるかもしれませんね。

どんな依頼でもドンとこい!

佐藤: 別注かばん、作るのおもろいなと気づいたのは、『DIME』(男性向けの情報誌)とビジネストートバッグを共同開発した時。それまでオリジナルでイチから作ったことがなかったけど、やってみたら意外とできるやん!って(笑)。
小川: あれはDIMEさんからお話があって?
佐藤: DIMEが数量限定で通販で売るためのオリジナルバッグを一緒に考えてもらえませんか?って。最初にこういう図面をもらった。
小川: 「買った人だけにわかる秘密のポケットをつけたい」って書いてます。
佐藤: あ、それは試作段階でなくなったんやけど。
小川: 「お米2キロの袋が入る」っていうメモもありますね。
佐藤: そんな要望もあったなぁ。サイズはA4版の書類のヨコにペットボトルが入れられるようにA3で。
小川: この図面を描いた方のこだわりが見えますね。
佐藤の写真
佐藤: DIMEの担当者さんなんやけど、もともと一澤のかばんを使い込んでくださってた方。
小川: なるほど、実際使ってはる人が想像したんやなってわかります。この図面からどうやって形にしていったんですか?
佐藤: 要望に合わせて、まずサイズ考えて、生地の寸法出して、組み立ててみて。ファスナーを付けたら使い勝手もいいし、見た目もかっこよくなるんちゃうかなとデザインしてみたり。でもやっぱり1回では満足いくものができひん。細かくサイズ変更したり、ポケットの数や位置を変えたりして、やっと「これでいける!」って。それまでうちではあんまりビジネス用のかばんとか作ってなかったけど、これをきっかけにデザイン展開も広がっていった。僕としてもこのプロジェクトは面白かったし、これから別注かばんの依頼があっても「よし、持ってこいや!」っていう自信がついた。なんでも作ったるぞーみたいな(笑)。
佐藤と小川の写真
小川: わかりました(笑)。じゃあこれからは難しそうな別注かばんの注文も、ドンとこいで。
佐藤: まかせとき(笑)。今も新しい別注かばんに取り組んでるところやで。
小川: 自転車の前ハンドルに付けるサイクルバッグですよね。あれはある自転車メーカーさんからお話があった時に、普段から自転車に乗ってる人に打ち合わせ同席してもらおうと思って、佐藤さんに声かけたんです。
佐藤: 旅行向けのランドナーというタイプを売り出すのに、オプションで付加価値をつけられるようなサイクルバッグがほしいという話で。台湾で大きな自転車の見本市があるから、まずはそこに持って行きたいと言われた。
小川: 最近の自転車は中国や台湾製がほとんどらしいんですけど、今回のランドナーはパーツも組立もすべて純日本製。だからオプションにもこだわりたいって。
佐藤: 先方さんのほうで具体的なイメージがあって、サイズも指定されているので、僕のほうではフックやバックルなど細かい仕様の部分を考えていく感じ。フックにはよくゴムが使われているけど、ゴムは劣化するので、うちでは紐にしようかと考えてる。荷物を入れてもゴソゴソ揺れないようにする工夫もいる。
小川: 台湾の展示会に出展するのはまだ先ですし、これから「ああしよう、こうしよう」がいろいろ出てきそうですね。
佐藤: うん、その過程が面白い。実は今、もういっこ考えなあかんのがあって。以前、あるテレビ番組の企画で、武豊さんから競馬のゼッケンの形のかばんをリクエストされて作ったことがあって。それは武さんが、うちが長年、中央競馬会のゼッケンを作っていたのを知ってはっての依頼やってんけどね。今度は、それをもとに商品として使えるようなおもろいかばんを考えてくれへんかって、社長から。
小川: あの時一緒に作ったあのかばんの片割れが、店舗のレジ奥の壁に飾ってるんですけど、お客さんから「売りものじゃないんですか?」ってよく聞かれるんですよ。
佐藤: あれはかばんとしての機能より、形としてのおもしろさを優先したんや。持ち手はディープインパクトの蹄鉄やし、ゼッケンの形も舟にも見えるような独特な形やし。
小川: かなりユニークなかばんですよね。
佐藤: かばんとして使うなら、持ち手を工夫したらものになるなって、頭の中では一応できてるんやけど。
小川: 武さんのラッキーナンバーは6でしたけど、今回はお客さんが好きな番号を選べるようにしよう!って。
佐藤: 社長また勝手なこと言うてるわ(笑)。
小川: 注文を受ける側も間違いが増えそうなものは困るんですけどね(苦笑)。
佐藤: まあでもそのへんの代替案も考えながら。お客さんはやっぱり選びたいやろうし、作る側もこれならいけるかなっていうところを。
小川: 社長は勝手なこと言いながら、社員の提案はちゃんと聞いてくれますからね。サイクルバッグもゼッケンかばんも、どんなものになるか楽しみです。

編集後記

今回はちょっと趣向を変えて、別注かばんのプロジェクトストーリーを語ってもらいました。一澤帆布時代には別注かばんまで製造する余力がなかなかありませんでしたが、最近はいろんなメーカーさんとのコラボバッグや、イベント用の限定販売バッグなど、別注品にも力を入れています。その主要メンバーとして活躍しているのが、工場長の佐藤と販売スタッフの小川。イチからお客さんと一緒に考えて作っていく別注かばんには特別な思い入れがあるようで、他にもここで紹介できなかったプロジェクトの話題がいくつも挙がっていました。サイト内の「別注品ギャラリー」には写真も載せていますので、そちらも併せてお楽しみください。