カバン・袋物・帆布加工一式 一澤信三郎帆布

一澤信三郎帆布の職人

第5回 修理担当のこだわり派3名「お客様が熱いから、自分たちも熱くなる」
小黒佐知子

販売部。1989年入社(25年目)。お客様からの修理相談に対応する店舗のベテラン社員。アルバイト情報誌を見て応募したのがきっかけで「気がついたらこんなに長く勤めていました」と語る。廣瀬・岩﨑からの人物評は「女性ならではの細やかな感性や気遣いがある。でもたまにガツンと怒られます(笑)」とのこと。

廣瀬健

製造部 中型(小型)ミシン担当。1997年入社(17年目)。不動産賃貸の営業職だったが、より自分に向いている職を見つけるべく一澤帆布に入社。1年間は店舗で販売を経験し、職人の道へ入る。現在は修理品を職人に振り分けるなどの管理業務も担当。小黒・岩﨑からの人物評は「何事もきっちりしてはる。家ではイクメンパパらしいです」

岩﨑修

製造部 大型ミシン担当。2000年入社(14年目)。テキスタイルメーカーの営業職から、作り手になりたいと職人に転職。ミリ単位の美しさにこだわり、大型ミシンを突き詰めたいと考えている。小黒・廣瀬からの人物評は「気軽に言いたいことを言ってお願いしやすい人」。東山界隈のカレーを食べ歩く社内サークルの“カレー部長”でもある。

お客様のご希望を聞くのが、修理のスタートライン

小黒の写真
小黒: 今回は「修理」の話をしようと思います。普段こうやってみんなで話す機会もあんまりないので新鮮な感じですね。
岩﨑: 確かに、ちょっと照れくさいかも。
廣瀬: でもいい機会じゃないですか。最近は修理依頼が多くて、平日でも1日2〜3個はありますもんね。
小黒: 月でいうと100個超える時も。観光シーズンには旅行のついでに修理に持ってこられる方もいらっしゃるので、一日に何十個と預かることもあります。店頭でご相談を受けるのはもちろん、郵送していただく場合も多く、全国から修理品が集まるんです。そのためお客様には申し訳ないですけど、1〜2ヵ月お待ちいただくことも…。
廣瀬: もちろん僕ら職人は「1日でも早く」という意識でやっているんです。毎日お使いいただいているかばんならすぐにでも返してほしいでしょうから。ただ修理は、新しい製品を作る以上に気の遣う作業なので、丁寧に対応するために十分な時間をいただくようにしています。
小黒: 修理の流れとしては、まず店頭スタッフがお客様から修理品を預かり、そこで修理に対してのご依頼などをお聞きします。修理内容によって値段も変わってくるので、ここが一番大事なところ。ファスナーやバンドの取り替えだったらすぐに見積もりを出せますが、複雑な修理の場合は職人とも相談させてもらって、一番いい修理法を見つけていきます。
かばんの写真
廣瀬: 例えば、破れている箇所に裏から生地を当ててステッチをかけるのか、それとも一部分まるまる取り替えたほうがいいのか。どちらがより早くてきれいで強くなるか。一つひとつ確認しながら決めていくんです。僕らが「こうしたほうがいいんじゃないか」って思うことを提案することもありますけど、まずはお客様が何を求めてらっしゃるのかが大事なので、店頭での話し合いのなかでそのギャップを埋めていく。ややこしい修理の場合は、お客様と小黒さん間での話も、小黒さんと職人間での話もすごく時間がかかりますね。
小黒: 私はかばんを作ったことがないので、どう修理すればいいかわからないこともたくさんあるんです。だから時間はかかっても、職人に相談して意見を聞くようにしています。
廣瀬: そこで修理方法や見積もりが決まったら、僕が各職人に修理を振り分けていく。一通りかばんが作れる職人なら修理もできるので、数人で担当しています。ただ技術的にはほとんどの職人ができるとしても、スピードと正確性を求めるとどうしてもベテランに偏りがち。修理に30分かかったらいくら、というふうに見積もりの目安を設けているので、お客様のご負担にならないように効率も考えているんです。
小黒: 岩﨑さんはよく修理を担当されていますが、大事にしていることってあるんですか?
修理作業中の写真
岩﨑: 僕はなるべく元のカタチに戻したいと思っていますね。縫い糸はなるべく解きたくないし、元のミシン目を活かして、同じラインで縫いたい。縫い目が多くなるとどうしても生地を傷めてしまうので。
廣瀬: 修理の基本はなるべく元通りにすること。その上で僕は補強と見栄えを同時にクリアしたいって気持ちもある。ただ元に戻すというより、カスタムメイドするというか。例えば裏から当て布をするんじゃなくて、表から新しい生地を縫い付けたら、新しいデザインにも見えるように。
岩﨑: そういう新しいデザインにも見えるような修理は、事前に必ずお客様にご納得いただくことが前提ですね。お客様と相談して、古いかばんに新しい変化を取り入れていく。職人がお客様のご要望を叶えるためにベストを尽くすなかで、それぞれのセンスがちょっと入ってくるのが面白い。実は修理している本人はみんな「オレってセンスいい」と思ってるんですよ(笑)。でも常にお客様に「さすが!」と満足してもらえないと。

クタクタのかばんから見えてくる歴史と愛着

岩﨑: それにしても、「修理してまた使う」ことがこんなに浸透しているかばん屋も珍しいんじゃないですか。僕ら職人は時々、催事場に出向いてお客様と接する機会があるんですが、「こんなにクタクタになってしまったけど直せますか?」と、見せに来てくださるお客様が多いことに驚きます。
小黒: 皆さんすごく愛着を持っておられるんですよね。
かばんの写真
岩﨑: そうそう。やっぱりお客様の一点物なので、修理するのも気持ちが入ります。ミスできないっていう緊張感もある。なかには正直、「こんなになってもまだ使ってくれはるんや」って思うようなかばんもあるんですよ。生地がへたりすぎているとミシンがうまく進まないこともあって悩ましいんですが…。それでも修理して使ってくださることに感動しますね。
廣瀬: うちの子どももだいぶ傷んだかばんを使っているので、「そろそろ買い替えようか」と言ったら、「いやや。柔らかいからこっちの方がいい」って。毎日使っているとその人なりのクセなんかも染みついて使いやすくなるんでしょうね。娘の言葉を聞いて、修理に持ってこられる方の気持ちがちょっとわかったような気がしました。
廣瀬の写真
岩﨑: 修理のかばんって生活感が見えるのが面白いですよね。たまに小銭や薬が入っていたり、買い物メモが入っていたりする。にんじん、たまねぎ、牛肉とか書いてあると、カレー作らはったんかなぁなんて想像して。
小黒: 店頭では「かばんの中に何も入れず、空っぽの状態で」とお願いしているんですけど、たまにそういうことがあるんです。
廣瀬: 土埃とか砂みたいなものがこびりついているかばんもあります。そういう場合はお客様のほうで一度洗っていただくのが良いかもしれません。僕らは預かったかばんを勝手に洗えないので。生地が汚れてパリパリになった状態で修理するより、洗っていただいてから修理したほうがきれいに仕上がると思います。
小黒: このページを通じてぜひお客様にお洗濯をお願いしたいです(笑)。
ところで修理されるお客様のことって気になります?
岩﨑: 僕らは直接お会いするわけじゃないですけど、伝票のお名前や住所を見て、どんな方なのかな〜と想像することはありますね。
岩﨑の写真
廣瀬: 僕は、お客様が女性だったらちょっと女性っぽくしてみようとか、若い人だったらなんとなく若者っぽくとか、イメージを持って修理しています。
小黒・岩﨑: へえ〜!そんなこと考えてたんですね。
廣瀬: あくまでイメージですよ。それでめちゃくちゃ修理方法が大きく変わることはないですけど。
小黒: 店頭では、お客様からそのかばんに対する思い入れをお聞きすることもあります。お父様から受け継いだものだとか、亡くなられたご家族が愛用していたものとか。そういう思い出話を聞くと、よけいに大事にしたいなあと思いますね。
廣瀬: 同じかばんを2回も3回も直して使ってくださっているお客様もいますもんね。
小黒: それだけ修理に出したら、新品買ったほうが安いと思うんですけど。そのかばんじゃないといけないんですよね。
岩﨑: だからこそ修理する側の気持ちも熱くなる。
小黒: こないだお会いしたお客様で、お母さんと小学3年生くらいの息子さんがいらっしゃいました。お母さんが使われていたかばんを2つ修理に持って来られたんですけど、1つは傷みが修理の限度を超えていたのでお断りしたら、息子さんが「僕これ使いたい」と言われたんです。もう1つは持ち手がボロボロで新しい持ち手に取り替えることになり、古い持ち手をこちらで処分すると言ったら、「その持ち手もほしい」と言われて。「捨てたらもったいない」とおっしゃるんです。小学生の男の子ですよ。
廣瀬: それはすごい。そういえば、「実家に帰ったときに、昔お父さんやお母さんが使っていた一澤のデイパックが押し入れにあったので修理して使いたい」と、持って来られたお子さんもいました。
小黒: 親御さんが若い頃に修学旅行で買われたかばんを、娘さんや息子さんが使われていることも。代々使い繋いでいかれるかばんには歴史があります。
岩﨑: ものを大事にされる方が一澤のかばんを愛用してくださっているんですね。それはほんとこの会社にいていつも驚くことです。
廣瀬: 「修理したかばんの金具やボタンを返してください」って言われるお客様もおられますね。記念や思い出に取っておかれるんだろうな〜と。だから取り替えるときになるべく傷がつかないよう気をつけています。
かばんと部品の写真
お客様からのメッセージ
小黒: 「こんなにきれいに修理していただいてありがとうございました」というお手紙をいただくことも多いですね。新品のかばんを買ってくださったお客様からもお礼状が届いたりします。普段、私が利用するお店に手紙を出すことってないので、すごくありがたいことだなと思っています。
廣瀬: その手紙は僕ら職人も見せてもらっていますが、やっぱりうれしくて顔がほころびますよ。

修理品は一つひとつ違うから奥深い

岩﨑: 修理していると、このかばんってこんな傷み方をするんやと教えてもらうことも多い。新品のかばんだけ作っていたらわからないことを、修理品から勉強させてもらうことがあるんです。
廣瀬: なるべく丈夫で長持ちするかばんを作るために、そういう情報を集めておいて新製品の開発にフィードバックすることもあります。そうするとどんどんファスナーを使いたくないっていうか(笑)。修理で一番多いのはファスナーの取り替えなんですよ。
小黒: 最高級の丈夫なファスナーを使用しているのですが。ファスナーテープの部分がどうしても痛むんですね。あとは明らかに摩れるところ、かばんの持ち手や肩の部分などですかね。でもどれだけクタクタになっても、持ち手が付け根から取れたかばんを見たことはありません。
岩﨑: それが一澤の帆布と仕事のすごいところ。
小黒の写真
小黒: (修理品のかばんを見ながら)これなんかかなり古いんじゃないですかね。20〜30年前とか。それより古いもので、判子みたいな一澤のスタンプが押してあるかばんを修理したこともあります。今は織りネームが付いていますが、その代わりにスタンプだった時代があるんです。年代は確かではないですけど50年以上前かも。うちでは生地も材料も、廃番になった昔のかばんのものもすべて揃えているので、職人が「修理してまだ使える」と判断したら修理しています。でもなかには傷みが限度を超えて修理できないものもあるし、修理せずに使ってもらったほうが長く使えるものもあります。
廣瀬: 当て布に関しては、限界を感じることもあるんです。以前、「ズボンのつぎあてみたいでかっこ悪い」というクレームをいただいて。それからはただ補強するだけじゃなく、見栄えのレベルも一段上げていかなければと思っています。
岩﨑: 当て布がイヤだったら、ポケットのように見せたりすることもできますよ。
廣瀬: 他に印象に残っていることで言えば、女子大生のお客様が学校の休みの間にリュックタイプのかばんを修理に持って来られたことがありました。ご要望通りに天蓋を替え、本体を補強し、ファスナーとバンドを替えたのはもちろん、そこに自分なりの工夫も加えて。けっこうステッチが入ってしまったのでどうかなと思ったけど、取りに来てくださったときにすごく喜んでいただけたようでホッとしました。見積もりが決まっているので大幅に変えることはできませんが、やっぱり修理後のかばんを受け取ったときに驚きや喜びがあるものにしたいなと思いますね。
修理作業中の写真
岩﨑: 修理って楽しいけれど、けっこう面倒くさい。面倒くさければ面倒くさいほど、やりがいや達成感がある。そして修理したかばんをお客様に本当に喜んでもらえたら、これほど職人冥利に尽きることはないですよね。
小黒: 私たちも修理を終えたかばんを見ると、「こんなにきれいになったんや!」って感動します。でもお客様は修理後どんなふうになるか具体的なイメージを持たれているわけではないので、事前にうまく説明できたらと思っているんです。
廣瀬: 店頭でお客様のご要望を汲み取って伝えてもらい、最終的にお客様・店頭スタッフ・職人の3者が同じ仕上がりをイメージできることが理想ですね。
小黒: はい!修理は奥が深すぎて、まだまだ到達点がないというか。一つひとつ違うので難しい面もあります。でも、直してまた使いたいというお客様の気持ちを大切に、これからもみんなで丁寧に修理に応えていきましょう。
3人の写真

編集後記

修理担当として普段から関わりの多い3人ですが、こんなにゆっくり話したのは初めてだとか。「話してみると考えていることが一緒だったり、違う目線が見られたりして面白かった」という感想でした。当社では、「かばんの修理」ページでもご案内している通り、長年お使いいただいたかばんもできる限り修理をお受けしています。一つひとつのかばんにお客様の想いが込められているように、職人の修理に対する想いもそれぞれ。センスと技術力が問われる仕事だけに、職人自身もやりがいを持って取り組んでいます。皆さまの大切なかばんも、だいぶ傷んできたなあと思われたらぜひご相談ください。